トルコは飯がうまかったし、それはトルコ航空(今はターキッシュ・エアラインズというらしい)も同じことで、窮屈なエコノミーの旅ながら食事には多少の楽しみを感じていた。

だが、イスタンブールからバンコクに向かうフライトは、ちょっと辛い体験になっちまった。

夕方に出発、早朝に到着するこの便では、夕食と朝食が出る。

この朝食を済ませたあと、それまではすこぶる良好だった体調が急変した。

悪寒がきて、胃のあたりが絞めつけられるようになった。

身体が冷えたのかと思い、ブランケットをかぶってみたが楽にならない。それどころか全身のイヤな感じがどんどん強まっていく。

「食当たりかも」と妻に言ったら、「やっぱりそう?食べるのよすように言えばよかった...」と唇を噛む。

彼女はタマゴ料理を食べ始めてすぐ味に違和感をおぼえ、早々に片付けてしまったが、それは自分の体調のせいかと思ったという。

彼女の直感が当たっているとすれば、朝食のほとんどをガッツリと摂取した自分に逃げ場はない。

ひえ~


少ししか食べなかったという妻も、私と同じくらいキツそうだった。

それから1時間後の着陸まで、私たちはトイレに駆け込んで盛大に吐き、悪寒に身を震わせていた。

夜通しのフライトで寝不足だったことが辛さを増幅させた。乗客にはトルコ経由でタイに向かう中央アジア系の人が多く、彼らがスマホで鳴らす音楽や、私の横を通過するたび身体をぶつけていく乱暴さのせいで、ろくに眠れなかったのだ。

徹夜明けの迎え酒、じゃなくて食あたり、キツそでしょ?


ふらふらになって降機し、入国手続きをし、手荷物を受け取ったところで動けなくなった。

到着ロビーの長椅子に座り込み、できれば横になりたかったが、時期が悪かった。新型コロナウイルス騒動で東アジア人が疑惑の目で見られがちのところ(イスタンブールでは実際にイヤな目にあった)、こんなところで目をつけられ隔離でもされてはたまったものではない。

同じ理由で、トルコ航空の乗務員にもこの問題を告げることなく降機した。本来であれば機内食が廃棄される前に調べてもらい、「証拠」を確保すべきところだが、もうこの件は自分たちがガマンして切り抜けるしかないと考えていた。

だがそれはかなり甘かったと思い知ることになる。


到着ロビーの長椅子に座り、とにかく周囲の目を引かぬよう必死に姿勢を保ち、静かに唸りながら耐えた。

目指すのは、なんとかバス移動できる状態にもっていくことだった。フアヒンまで4時間かけて移動することになっていたからだ。

もともとフアヒン行きは予定しておらず、訪タイの主目的はバンコクでの人間ドックだったが、出発直前になって新型コロナウイルス問題に火がついたため、都会とそこにある病院を避け、リゾートに立てこもる方針に切り替えたのだった。


ところが空港ターミナルで2時間がんばっても、体調は上向くどころか、次々に吐き気が襲ってくるばかりで、光明の差す気配まったくなし。

神様、私たちなんか悪いことしましたか...?

意識が半分ほど飛んだ状態で天に問いかけていたころ、気丈な妻が方針転換の準備を進めていた。

スマホの SIM カードを買い、空港周辺のホテルをググって、デイユースのプランを買った。

午前10時、シャトルサービスで NOVOTEL へ移動してチェックイン。

べ、べ、ベッドやぁ...

と情けない声を上げながらシーツの下に潜り込む。

だが妻も同じくらい辛かったと思う。

ありがとう。すまん。ありがとう...


デイユースの期限である午後5時まで休めばなんとかフアヒン行きのバスにという思いもあったが、てんで甘かった。

すでに空っぽになったと思っていた胃から突き上げるようにして吐き気が上ってきて、トイレに駆け込む。

生まれて初めての経験だったが、胃袋どころかその下にある十二指腸から大量の吐しゃ物が押し出され、胃の幽門をこじあけて噴き上がる感覚があり、盛大に吐く。

ここまできてこれほど出ることに驚くと同時に、脱水症状による全身の痺れや肩首の筋肉痛に呻き声しか出ない。

結局、その日のうちに人間にもどることはかなわなず、フアヒンまでの移動をあきらめ、空港ホテルでの一泊を余儀なくされた。

発症から12時間ほどで胃が完全に空になったあとは腸のほうが暴れ出し、15分ごとにトイレ通う。連続徹夜状態。


この苦行にかかった費用。

デイユース料金161ドル、宿泊料237ドル、合わせて398ドル。

フアヒンに予約済のホテル代210ドルが無駄になった(hotels.comで払込み済、返金不可)。

翌日、フアヒン行きバスの所要時間と乗り継ぎの大変さを考えて発注したカーサービスとの差額50ドル。

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「不時着」の晩、なんとか脱水症状だけは避けようとルームサービス。くっそ高かった。

こうした経済的損失のほか、なんといっても肉体的なダメージが重かった。

フアヒンでの4泊5日は、少量の食事をとるため部屋を日に1~2回出る以外は眠ったりぼーっとしたりすることが続き、病人がようやく半病人へと昇格したところで終わってしまった。

被害者根性的な言い方をすれば、大枚はたいて準備したリゾートでの休日が、ただ一回の食事のせいで台無しになったというわけだ。


トルコ航空に連絡して、なんとかしてもらえばいいじゃんという声もあろう。

だが当方は前述の事情により医師の診察を受けておらず「証拠」を確保していないから、トルコ航空がその気になれば完全に無視することもできるだろう。

でもさ、あれが食中毒でなければいったい何だったのかね。

このままでは腹が収まらないから(いや腹痛は収まったが)、いちおう連絡は入れたよ。

そしたらテンプレ通りの返答がきた。

このやりとりについては、あらためてここでまとめることになるかも。


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